お客さまPROFILE
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トヨタ自動車株式会社(以下、トヨタ)さまは1937年に設立以来、「クルマづくりを通じて社会に貢献すること」を理念にモータリゼーションの進展に大きく貢献してきました。今回の取材先となる三好工場さまは、自動車部品の生産工場として1968年に操業を開始し、駆動系やエンジン部品をはじめ冷間鍛造や焼結部品などの加工・組立を行っています。代表的な製品として、プロペラシャフト、連続可変バルブタイミング機構部品、ハイブリッド車の電気制御部品などを手掛け、2011年にはドライブシャフトの生産累計が4,000万台を突破しています。
プロジェクトメンバー
トヨタ
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第13機械課
課長金子 優
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第13機械課
シニアエキスパート服部 正
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第1工務グループ
チーフエキスパート藤本 佳伸
中部電力ミライズ
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法人営業部岡墻 慎祐
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法人営業部高村 吉浩
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法人営業部田中 良
(注)所属は2020年2月取材当時
index
廃棄物を低減したいが
「洗浄液の廃液処理」を
何とかできないか
トヨタさまは、クルマの環境負荷をゼロに近づける「トヨタ環境チャレンジ2050」のもとで、グループを挙げて取り組みを進めています。三好工場さまでも、廃棄物の低減、CO2排出量の削減、水環境インパクト最小化を重点課題と位置づけ、毎年、前年比2%削減の目標を掲げています。「廃棄物」については部品の切削や洗浄工程で廃油・廃液、金属の切粉などが大量に発生しており、特に頭を悩ませたのが、部品洗浄後の廃液処理の問題でした。
部品の洗浄液は繰り返し使用し、3ヶ月程度で定期的に交換していました。役目を終えた洗浄液の廃液はタンクに貯蔵後、蒸気によって濃縮・減容して処理事業者が回収します。この減容工程で消費するエネルギー(=CO2排出量)やタンク洗浄に使う水の排水量も、廃液処理とともに重い課題となっていたのです。
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一方通行の「廃棄」から
「洗浄液の再生・長寿命化」へ
転換を
2018年10月、三好工場さまの環境対策チームでは「従来の方法では、廃棄物削減の目標達成は不可能だ。何か抜本的な対策を打たなければ・・」と有効な手段を模索していたところ、「工場の技術員が関西オートメ機器さま・中部電力ミライズと共同で、微細な泡を使った装置で部品の洗浄効果を高める試みをしている」という情報をキャッチしました。それはファインバブルという直径0.1~0.01mmの超微粒の帯電した気泡によって、さまざまな汚れを効果的に洗浄する新技術でした。
また、このファインバブルは洗浄液中の油分を除去する効果を持っていることに注目した省CO2担当の服部さまは、「この装置は、廃液処理にも使えるのでは?」と考え、開発に携わった中部電力ミライズにご相談をいただきました。
そこで、中部電力ミライズはトヨタさまを中部電力ミライズの実験施設にお招きし、ファインバブルを活用した装置に触れていただきながら、その概略、開発の流れ、改善事例などについてご説明しました。
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「ファインバブル浮上分離装置」の開発
トヨタさまからのご期待に応えるべく、装置の開発プロジェクトが目指したのは、「部品の洗浄能力を向上させる装置」とは異なり、使用済み洗浄液と油・スラッジが混じり合い乳剤化(エマルション化)した廃液を「各々を分離させて洗浄液を再生する装置」でした。さらに、「(1)省電力(2)蒸気を使わない(3)騒音がない(4)異臭がない(5)低コスト」という命題もクリアすることが必要とされました。
関西オートメ機器および中部電力ミライズは、それぞれの知見を持ち寄り、工程の設計、装置の構造や基本仕様、要素技術の開発に至るまで、個々の強みを発揮しながら課題を一つ一つクリアしていきました。
装置のしくみは、まずファインバブルを乳化した廃液に噴射して解乳化(エマルションを破壊)します。これによって分離された不純物を泡に付着させて水面に浮上させ、凝集。この不純物をカキトリ板が回収、汚れを効率的に廃棄ボックスに落とし、きれいになった洗浄液だけをタンクに戻すというものです。
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中部電力
ミライズ
「ファインバブルが、油などの不純物を上に押し上げるということを能動的におこなう技術は、今までになかったと思います」
さらに装置の精度を高めるため改良を重ねました。例えば、異臭防止対策。液中の有機物を分解する嫌気性バクテリアによる代謝反応の結果、硫化水素やメタンが生成され、これが異臭の元となります。そこで水産養殖でファインバブルを使い水質改善に成功した知見を活かし、洗浄液に酸素を注入し、積極的に攪拌することで、この問題を解決しました。
超微細な泡「ファインバブル」の特徴
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現場の導入不安を乗り越え、
さまざまな環境負荷を低減
三好工場さまの環境対策チームが『洗浄液の再生』にチャレンジする過程で、最も苦労されたのは、生産現場の説得でした。
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トヨタ自動車
金子さま
「私たちは世界トップレベルの品質をつくり込むことを何より大切に考えている会社です。現場の一人ひとりが品質向上に取り組んでいます。彼らが心配したのは、それまで廃棄していたものを再生使用することで生じるかもしれない品質への影響です。汚れは落ちるのか、サビは発生しないか、臭いは大丈夫か。しかし、チャレンジしなければ環境目標は達成できません」
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トヨタ自動車
藤本さま
「私たちは世界トップレベルの品質をつくり込むことを何より大切に考えている会社です。現場の一人ひとりが品質向上に取り組んでいます。彼らが心配したのは、それまで廃棄していたものを再生使用することで生じるかもしれない品質への影響です。汚れは落ちるのか、サビは発生しないか、臭いは大丈夫か。しかし、チャレンジしなければ環境目標は達成できません」
こうして2019年3月、ファインバブル浮上分離装置を設置し、安定的に稼働するに伴い、現場の不安な声は聞こえなくなりました。サビなどが大敵の精密部品においても影響は確認されず、洗浄液内の生菌数を測定する成分調査でも結果は良好でした。
これによって大量の廃液を蒸気で濃縮・減容する必要がなくなり、1トンの廃液濃縮に1.2トンの蒸気を使用していたものがゼロに、洗浄液をリサイクルできることから排水量も大幅に削減。これら一連のエネルギー使用量を削減したことで、CO2排出量も年間27.5トン削減できました。
洗浄液リサイクル室と
ファインバブル浮上分離装置
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工程改善による成果
■洗浄廃液の発生・処分量
再生洗浄液使用により工場全体の廃液量半減(2019年度実績:再生液使用先拡大中)
■CO2排出量
廃液の濃縮・減容時に使用していた蒸気によるCO2排出削減量:27.5t-CO2/年
■廃棄物低減
濃縮液の廃棄物低減量:11.5t/年
■タンクの清掃に伴う水使用量・排水量低減
■投資コストの回収率
1.5年で初期費用を回収(廃液処理、濃縮に必要なエネルギー、廃棄物処理などの合算コストで計算)
■振動・音・臭気
公的な環境基準および社内基準に適合
部署を超え、分野を超えた
水平展開の動きが活発に
今回の取り組みは「廃棄から再生へ」という新発想とチームワークで、革新的な洗浄液再生システムを実用化し、廃棄物低減やCO2削減で大きな実績を上げました。この成果を受けて、三好工場さまでは、複数の部署でファインバブルの活用を検討され、今後の水平展開による用途・スケールの広がりが期待されています。
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プロジェクトを振り返って、メンバーの方々から次のようなご感想をいただきました。
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トヨタ自動車
金子さま
「自動車業界は100年に一度の大変革期を迎え、トヨタもクルマづくりだけではない“モビリティカンパニー”へ生まれ変わろうとしています。そのために私たちは多様な分野の人と意見を交わしながら、次代に求められる新しい価値を創り上げていくことが重要です。今回の中部電力ミライズさんとの取り組みは、その良い事例と言っていいでしょう」
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トヨタ自動車
藤本さま
「今回の経験で信頼できるブレーンがいると、どれだけ心強いかを実感しました。小さな相談にも丁寧に対応してくれるので本当に助かりました。今後も中部電力ミライズさんとの信頼関係を継続し、その時々で抱えている問題解決のサポートをお願いしたいです」
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トヨタ自動車
服部さま
「毎日同じ職場にいると、視野が狭くなって気づかないところが出てきます。中部電力ミライズさんのような外部の視点から意見をいただくと新たな気づきが生まれます」
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中部電力
ミライズ
「私は10年近く自動車メーカーさまの省エネのソリューションに関わる中で、お客さまからさまざまな事を教えていただきながら、一緒に悩み、課題解決に取り組んできました。中部電力ミライズというと『電気』を連想されますが、私たちはもっと広い『エネルギー』という視点から課題を分析し、生産性向上・環境負荷やコスト低減などに貢献できるご提案を心掛けています。今後も一歩進んだ総合エネルギー企業ならではのソリューションをご提供していきます」
関西オートメ機器さまと中部電力ミライズは、このプロジェクト以降も製品の開発・改良を進めており、共同開発した新技術を超高速ファインバブル浮上分離装置「RaFloM-HE(ラフローム-HE)」として製品化し、2020年1月、両社とも統一商品名で販売を開始しました。
切削・研磨工程で使う切削液(クーラント)や洗浄液の不純物を分離し、不純物をろ過するフィルターの長寿命化や清掃回数の低減を図り、管理コストを大幅に削減します。
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開発における役割分担
関西オートメ機器:装置全体設計、製作、ファインバブルアプリケーションの提供
中部電力ミライズ:廃液をうまく分離させる内部構造にするための流体シミュレーションの実施
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トヨタ自動車
服部さま
「このときに、ファインバブルによる廃液洗浄装置の活用を決断しました。その活用の狙いとしては、『一方通行の廃液処理』から『洗浄液の再生・長寿命化への転換』でした」