毛利さん2021年に完成した本社社屋でZEBを達成するなど先駆的な取り組みをされていますが、SDGsに注目するようになったきっかけを教えてください。
市川さん当社ではかなり前から、リサイクルや廃棄物削減など環境活動に注力してきました。それを加速させたのが、本社社屋の建て替えのタイミングです。
毛利さんそれは大きなきっかけですね。
市川さんそうなんです。旧社屋は築50年に迫る3階建てで、敷地の周囲を塀で囲まれたとても閉鎖的な空間でした。
毛利さんそうなんですか!?今、私たちがいる新社屋はとてもオープンな雰囲気なので想像できないです。
市川さん閉鎖的な空間であったのは理由があったのだと思います。当社は建設業ゆえ、砂利や建材の搬出入時に砂ぼこりや騒音が発生します。当時はそれに配慮したのだと思いますが、新社屋では、もちろん騒音にも配慮しながら、地域との交流をとても大切にしているんですよ。
毛利さんオープンな空間には社員の働く環境の改善だけでなく、地域交流という視点もあるんですね。
市川さん今までは地域の方々と接する機会が少ないのが悩みでした。しかし、企業には社会の一員としての責任があり、地域との積極的な交流は、その社会的責任を果たすためのとても重要な活動なんです。ですので、本社を地域の方々にとっても開かれた空間にすることで、そこで生まれる接点をもって、地域貢献したいと考えました。
毛利さんそうなんですね。そしてZEBに取り組まれたということなんですね。
市川さん建て替えの計画が持ち上がった2015年は、ちょうどSDGsが採択された年でもあります。県主催のセミナーでZEBの実例を見学する機会があったのですが、当時の省エネは人に我慢を強いているようで、実は共感できませんでした。
毛利さんどういうことでしょうか?
市川さん節電のために照明を一部消し、エアコンの温度設定を高くして扇風機を回すなど、そこで働く人はけっして快適でないように思えたのです。ZEBはとてもすばらしいことだけれど、どうしてもそれを建てようとは思えなかった。
毛利さん社員の皆さんが気持ちよく働ける環境も大切ですよね。
市川さんそうなんです。そこから、環境にも人にもやさしい空間を高いレベルで実現する方法はないか、模索が続きました。
毛利さん環境への配慮と快適な空間の両立は難しそうですね。
市川さんその後「地球(=環境)にやさしい」「人(=社員)にやさしい」「社会(=地域)にやさしい」を軸に定め、社内で本社新社屋に向けた部署横断プロジェクトを発足させました。
毛利さんプロジェクトのメンバーは?
市川さん会社の未来を担う若い社員を中心に、まずZEBのさまざまな先進事例を見学してもらいました。そのうえでプランを練ってもらったのですが、理想と現実のギャップから当時は我々経営陣とかなりぶつかりました。それほど真剣に社が一丸となって検討を重ねたということです。
毛利さん経営陣に対して若手社員が意見をぶつけられる環境っていいですね。
市川さん当社のフィロソフィー(哲学)の一つ「全社員経営」の賜物でしょうか。
毛利さん自由に意見の言える、風通しのいい職場ということですね。
市川さん本社の建て替えプロジェクトと並行して、SDGsに関する社内教育も実施。カードゲームやグループディスカッションなどを通して、世の中の流れと当社の進むべき道を全社員が理解し共有しました。
毛利さん社内で環境意識を徹底し、その土壌づくりにも注力されたのですね。
毛利さん完成した新社屋の特長を教えてください。
市川さん実はこの建物には今エアコンを稼動させていないのですが、居心地はいかがですか?
毛利さんえ!本当ですか?今年の浜松市は特に猛暑と聞いていますが、とても快適です。
市川さん深さ90mから地下水を汲み上げて建物内の輻射パネルを循環させることで、館内を冷やしているんですよ。地下水の温度は年間を通して16℃と安定しているため、夏期は冷房として利用でき、冬期は屋上の太陽熱集熱器により70℃に温めて暖房として利用することができます。
毛利さんエアコンなしで冷暖房が可能だなんて、すごいですね!
市川さんもちろんほかにも外断熱やペアガラス、壁面緑化など、たくさんの工夫を施すことで、省エネを叶えながら人が快適に過ごせる空間を実現しています。そして、先ほどの地域貢献の話にもつながりますが、新社屋は地域にも開放することで、コミュニティ形成にもひと役買っているんですよ。
毛利さん今日も1階の会議室で、SDGsの講座がおこなわれていましたね。
市川さんセキュリティがかけられた部屋以外は誰でも出入りできるようになっているため、井戸端会議にいらっしゃる方々も見かけます。
毛利さんまさに地域に開かれた空間ですね。この社屋が完成した10ヶ月後に「静岡Greenでんき」を導入されていますが、きっかけはなんでしたか?
市川さん新社屋では使用するエネルギーを73%(注)削減し、太陽光パネルの発電により30%(注)のエネルギーをつくっています。つまり年間で正味103%のエネルギー削減を実現しているのですが、どうしても購入しなければいけない電力もあるためCO2排出ゼロとは言えなかったのが悩みでした。((注)従来の建物で必要なエネルギーに対する削減割合)
毛利さんそうだったんですね。
市川さんそこでいろいろ調べたところCO2排出ゼロの電気「静岡Greenでんき」を見つけ、これだ!と感じてすぐに導入を決心しました。
毛利さん導入にあたり、コスト面などの不安はありませんでしたか?
市川さんもちろん一般電力に比べて価格は若干高いのですが、ネットゼロを達成するため、必要不可欠なコストだと判断しました。
毛利さん導入後、なにか変化はありましたか?
市川さん本社社屋に関しては、ネットゼロと宣言できることが大きな変化です。
毛利さんネットゼロというインパクトは大きいですね。
市川さんはい。環境意識が高まっている中で、ネットゼロを達成することで、環境に配慮した企業としてのイメージが強化され、事業や採用活動において、大きな効果を生むと確信しています。
毛利さんSDGsに対する関心が高い学生には響きそうですね。
市川さんすでに当社の取り組みに共感して入社した社員もいるんですよ。本当に嬉しい出来事でした。
毛利さん取引先の反応はいかがですか?
市川さん省エネ改修の相談が確実に増えています。また、実際に来社された企業さまから「これだけの技術を詰め込んだ設計はすごい!ぜひうちもお願いしたい」と評価いただき、コンペ設計の受注という実績や、「この本社みたいに快適で電気代の抑えられる建物を作ってほしい」との要望を受けて、この8月に竣工する建物もあります。
社員採用の実績同様、こちらも建設業界における脱炭素化のフロントランナーとしての自信につながりました。
毛利さん「静岡Greenでんき」をはじめとするCO2フリー電気に興味を持つ企業に向けて、メッセージをお願いします。
市川さんコストは必要ですが、社員教育やお客さま・取引先さまへの提案が広がると同時に、ステークホルダーを巻き込んで環境意識そのものを変えるきっかけとなるはずです。CSRの観点からもすぐに導入されることをおすすめします。
毛利さん今後についてはどのようにお考えですか?
市川さんCSRやSDGsの観点から、さらにエコな企業として成長できると考えています。まずはSDGsに示された17の目標と当社の事業である建設業を改めて照らし合わせ、ポジティブな要素を増やすとともに少しでもネガティブな要素を減らす努力を続ける必要があります。例えば建設現場において廃棄物はどうしても発生します。それをしょうがないで済ますのではなく、どうしたら廃棄物を減らすことができるのか、知恵を絞り前に進むことが重要です。
毛利さん私自身も、何かもっとできることがないか考えてみたいと思います。
市川さん小さな取り組みもみんながおこなうことで、今の子どもたちやこれから生まれる子どもたちのために、少しでもいい状態の地球をつないでいきたいと思っています。
毛利さん本日は貴重なお話をありがとうございました。