Story
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脱炭素への目標設定と削減の実施。
共に描く持続可能な未来
第5回のコラムでは、炭素会計(カーボンアカウンティング)の第一歩となる排出量の把握方法について解説しました。前回説明した通り、炭素会計のサイクルを通して事業活動による二酸化炭素などの削減を進めていくには、(1)現状把握、(2)目標設定、(3)削減の実施、(4)情報開示という4つのステップを繰り返していきます。しかしこれらのプロセスには費用とノウハウの蓄積が必要となるため、一足飛びに実現することは困難でしょう。大切なのは、できることから一歩ずつ着実に進めていくこと。そこで今回は、第5回で解説した(1)現状把握に続く具体的なステップとして、目標の立て方と実践可能な削減方法についてご紹介します。
今回のコラムで学べること
- 国際基準SBTによる目標設定の進め方
- 省エネ・再エネ活用など具体的な削減手法
- 企業の実情に応じた段階的な実践アプローチ
Chapter 01 国際基準SBTによる目標設定の進め方
国際基準に基づく目標設定。
SBTが示す削減シナリオ
「(1)現状把握」の次のステップは、具体的な「(2)目標設定」です。この際、世界的な基準となっているのがSBT(Science-Based Target)。これは「パリ協定の水準に整合した、企業が設定する排出削減目標」を指します。この認定を得ることで、各企業が立てた削減目標がパリ協定に沿った削減への取り組みであることをアピールできることになります。
目標には短期目標(5~10年)と長期目標(ネットゼロ目標)の2種類があり、まずは短期目標の設定が必須となっています。なお、認定基準や手法、業種別のツールやガイダンスは公開されており、企業は自社の状況に応じて参考にすることができます。

日本企業のSBT認定取得は着実に進展しています。2024年11月末時点で認定取得企業数は1480社を超え、これは国別では世界一の数字となっています。つまり、日本にはこの国際イニシアチブに関する豊富なノウハウが蓄積されているのです。「大企業ばかりなのでは…?」と感じるかもしれませんが、実はそうではありません。2020年には「中小企業版SBT」が設けられ、2024年11月時点で1135社と1年前から倍増。これは、サプライチェーンを通じた企業間のつながりによる広がりを示しています。すぐにチャレンジすることが難しくても、段階的な準備を進めることが、来るべき時期へのプロローグとなるでしょう。



Chapter 02 省エネ・再エネ活用など具体的な削減手法
具体的な削減方法の選択肢。
省エネから再エネ活用まで
目標達成に向けた「(3)削減の実施」には、様々な選択肢があります。まず思い浮かぶのが省エネです。設備の省エネ型への更新や運用方法の改善は、経費節減に直接つながるため、取り組みやすい対策といえるでしょう。また、原材料の調達や製品販売、サービス方法においても工夫と検討の余地が広がっています。

次に注目したいのが再生可能エネルギーの活用です。太陽光、風力、バイオマス、水力、地熱など、その形態は様々。これらを活用して二酸化炭素の削減につなげる方法としては、「自家発電・自家消費」による自社での発電・利用のほか、「コーポレートPPA(電力購入契約)」や「小売り電気事業者からの購入」による他社からの調達、さらには再生可能エネルギー由来の証書(非化石証書、グリーン電力証書など)の購入といった選択肢があり、それぞれにメリットとデメリットがあります。
また、技術的に大気から炭素を除去する方法や、森林・海洋などの自然の力を活用して大気中の炭素吸収量を増やす方法も注目されています。これらは「中和」と呼ばれ、削減しきれずに残る排出量をゼロに近づけるための手法として活用可能です。
環境省では「SBT等の達成に向けたGHG排出削減計画策定ガイドブック」を作成し、目標達成に向けた具体的な手順や視点、事例を紹介しています。このガイドブックでは、短期・中長期の双方の視野での検討、Scope1~3ごとの対策立案、サプライヤーによるGHG排出削減の取り組み支援、各削減策の優先度判定、そしてネットゼロに向けた追加施策の検討など、実践的なアプローチが示されていますので、ぜひ参考にしてください。

Chapter 03 企業の実情に応じた段階的な実践アプローチ
着実な一歩を積み重ねて。
共に進める脱炭素への道
目標を設定する際、「いきなりSBTに取り組むのはハードルが高い」と感じるのは当然のことでしょう。まずは、このような目標設定の考え方があることを知った上で、自社独自の無理のない目標から検討を始めることが現実的です。特に重要なのは「真水での削減」、つまり実際の排出を減らすためのアイデアと工夫、そして挑戦と実行です。
脱炭素への取り組みは、様々な主体による自助努力の積み重ねとして進展してきました。ここで求められているのは無理な取り組みではなく、地域や社会とともに着実に継続していける事業活動を探求すること。個々の事業者の意思と実践が集積されていくことで、社会全体が目指す方向へと確実に歩みを進めていけるのではないでしょうか。

